腎臓・内分泌・代謝内科

教授メッセージ

腎臓内分泌代謝内科教授 林 香

腎臓内分泌代謝内科教授 林 香

私達は、腎臓部門、内分泌代謝部門という大きく2つの専門領域を包括する歴史ある内科です。糖尿病、脂質異常、肥満、ホルモン異常などの内分泌代謝疾患と、高血圧、腎臓病は、病態の関連性が非常に強く、私達は連携して診療にあたることにより、病態のより深い理解と専門性の高い医療を目指しています。
当科の診療の中心となるこれらの疾患は、人口の高齢化を背景に昨今増加の一途を辿っており、健康寿命を損なう大きな要因となっています。この大きな問題を解決すべく、日進月歩で治療法が進歩する中で、腎臓病、内分泌代謝疾患の診療は劇的に変化しつつあります。しかし、まだ明らかにはされていない疾患のメカニズムが多く眠っている分野でもあり、疾患の進行抑制や検査数値のコントロールにとどまらず、根治を目指した治療法開発のニーズも非常に高い分野です。私達は使命の重大さを自覚しながら、診療に、研究に日々研鑽を積んでいます。
当科の強みは、多様性を維持できる歴史、文化があり、かつ、各専門分野で活躍する先輩がたくさんいることです。未知の病態を解明して、新しい治療法開発に貢献するPhysician Scientistを目指す人、診療の中で生じた疑問を臨床研究の形で解決し、エビデンス創出を目指す人、大学で専門性を身に着けたうえで家庭医として地域医療への貢献を目指す人、どんな形であれ腎臓内分泌代謝内科の診療・研究を極めたいすべての方に、当科は開かれています。多くの方が私達の仲間になってくださることを願っています。

専修医教育

内科全般の疾患の広範な知識と医療技術とともに、腎臓内分泌代謝科の専門性を併せ持った医療人の養成を目的とします。

卒後3〜4年目では、多くの場合連携病院において、指導医の監督のもと、病棟業務、血液透析、腹膜透析、腎生検・腎病理、内分泌代謝疾患などについて基本的研修をおこないます。具体的には、腎臓疾患を症例ごとに学ぶ、腎生検、腎病理を学び、同時にその所見から治療方針を立てる、末期腎不全患者において血液透析・腹膜透析の導入、管理を学ぶ、高血圧の診断、薬剤選択を学ぶ、電解質・水管理を行う、内分泌疾患に関する実践的知識を幅広く学ぶ、1型・2型糖尿病、妊娠糖尿病、その他の糖尿病について、その診断・治療・マネージメントを習得することになります。卒後5〜7年目では慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科の病棟および外来を担当し、専門医の取得を念頭に専門のトレーニングを開始します。

腎臓内科では病棟および外来業務を通して、腎臓内科医として必要な広範な知識と技術を身につけるとともに、腎生検手技・腎病理診断、血液透析・血液浄化療法(血液浄化透析センター)、腹膜透析、バスキュラーアクセス(シャントPTAなど)を幅広く経験し、腎臓内科医として専門性の高い技術や知識を習得することができます。

内分泌代謝内科では病棟では各分野の専門医の指導の下グループ診療を行い主担当医(オーベン)として研修医の教育に携わりながら、内分泌代謝疾患、あるいは内科的な諸問題にて入院となった患者を中心に診療を行います。病棟症例は、全ての研修者になるべく均等に受け持つ機会を提供し、さらにカンファレンスに参加することにより、より多くの症例を経験できます.専門医取得に必要な学会報告などの機会も提供します。外来では症例ごとの状態に応じたフォローの仕方などを学び、最終的には自ら大学病院の外来を担当します。また6年目以降は内分泌代謝外来診療、ならびに他科からの診療依頼に対する対応を中心に学びます。外科系の手術前後の管理、高カロリー輸液時の血糖などの管理、妊娠糖尿病もしくは糖尿病合併妊娠の管理など特殊な病態における内分泌代謝疾患管理も研修します。内分泌疾患は、甲状腺疾患のように、患者数は多いが外来診療が主となる疾患もあり、このような症例は外来研修を通じて学びます。

専修医教育の特徴

腎臓内科

病棟および外来を担当し、腎臓内科医として必要な知識と技術を幅広く身につけることができます。また、より専門性の高い領域として、腎生検・腎病理診断、腎代替療法、バスキュラーアクセスについても、高度な技術や知識を習得することが可能です。腎生検では、単に手技を習得するのみならず、病態を理解し治療方針を検討できるよう腎病理診断のトレーニングを受けることができます。腎代替療法については、症例を通して、血液透析、腹膜透析、移植について学ぶ機会を確保し、導入や管理について実践を積み、必要な知識と技術を習得します。さらに、血液透析に関しては、バスキュラーアクセスの管理・修復術を経験し、実際にシャントPTAなどの手技を鍛錬することも可能です。

内分泌内科

内分泌疾患は、疾患の希少性、複雑な診断法、外科的治療を含めた複数の治療選択といった様々な観点から、すべての疾患を特殊疾患として取り扱っています。中でも副腎疾患の症例数は全国でトップクラスであり、当院で研修するアドバンテージの一つです。

代謝内科

糖尿病代謝領域では、1型・2型糖尿病をはじめ、ステロイド糖尿病、ミトコンドリア糖尿病、膵性糖尿病、妊娠糖尿病など多岐にわたる糖尿病患者に対するマネージメントが習得可能です。特殊検査として、24時間持続血糖モニター(CGM)インスリン分泌能の検査などを行っています。また、周術期の血糖コントロールや妊娠時の血糖管理に携わる上、3大合併症や動脈硬化性疾患の評価を行うため、他科とのコミュニケーションを重視しています。食事・運動療法を中心とする肥満症例や減量外科関連症例を担当する場合もあります。

専修医修了コンピテンシー

腎臓内科

病棟では病棟医長、病棟チーフ・サブチーフの指導の下、チーム体制で病棟業務を行います。病棟回診では、治療方針の決定とともに、ディスカッションを通して、自身や他の専修医の症例を深く掘り下げて学ぶことができます。カンファレンスでは、火曜日夕方に新入院患者や難渋する症例について、金曜日午前に併診患者について、治療方針や問題点などをディスカッションします。また、火曜日午後の透析カンファレンスで、血液浄化透析センターと入院透析患者の治療方針や問題点などを共有します。さらに、月に2回、関連病院を交えて、腎病理医の指導の下、腎生検症例カンファレンスを実施しています。

内分泌代謝内科

病棟では病棟医長(卒後20-25年目)、副医長(卒後10-20年目)、レジデント(卒後5-9年目)の指導の下、病棟業務を行います。木曜日午後に内分泌症例カンファレンスを行います。代謝内科では、金曜日に講師による全病棟回診を行い治療方針を決定しています。その他、看護師、栄養士を含めた病棟カンファレンスや、火曜日午後の全症例カンファレンス、また産科とのカンファレンスなどを積極的に行い、チーム医療の中で治療方針を決定しています。

また月に1回金曜日午後には、関連病院の先生方、初期臨床研修医、医学生にも参加していただき、腎臓疾患、内分泌疾患、代謝疾患の基本的な症例を提示し、ディスカッションを行わことで、疾患の基本および治療法の基本、最新の治療、最新の知見を学ぶことができます。 担当した症例についての各種学術会議での発表についても積極的に行っており、最新のトピックやエビデンスに基づいた適切で細かい指導を受けることができます。


腎臓内科、内分泌内科、代謝内科(糖尿病)の3つの診療グループにより診療が行われており、クルズスもそれぞれの専門分野の医師による質の高いクルズスを行っている。

腎臓内科では主に、研修医に向けて、CKD管理、水電解質・酸塩基平衡、腎代替療法についてクルズスが行われる。また、若手医師を対象に、バーチャルスライドを用いて、腎病理診断のトレーニングを実施している。病棟カンファレンス,併診カンファレンス,腎生検症例カンファレンスでは、全体で症例を共有し、診断や最新の治療法について、実例を通した研修指導を行っている。内分泌代謝内科では糖尿病の治療、甲状腺疾患、およびその他の代謝疾患(メタボリックシンドローム、脂質異常症、高尿酸血症)について、研修医の集まりやすい土曜日午後にクルズスを行っている。クルズスは卒後5〜10年目程度の医師が毎回パワーポイントなどで資料を作成し、先輩の知恵がたくさん詰まった話を約1時間程度行っている。また、副腎・下垂体疾患についても入院症例は豊富であり、毎週木曜日に1時間程度のカンファレンスを行い、実例を通した研修指導を行っている。スモールグループカンファレンスであり、クルズスと同様に双方向性のレクチャー・ディスカッションを心がけている。検査の組み立て方、画像の読み方、データの詳細な解釈など細部にわたって専門医が解説を行う。

先輩からのアドバイス

慶應内科で内科医の土台を築き、世界に羽ばたく

コロンビア大学医学部微生物免疫学教室
博士研究員
川野 義長内科医を目指す後輩の皆さんへ。皆さんはきっと今、理想の内科医像を思い描き情熱を燃やすと同時に、自分が内科医としてどの様なキャリアを積んでいけばいいのか分からず、不安な気持ちが共存している事でしょう。そんな皆さんに慶應の内科は一つの道標を示してくれると思います。
自分にとっての慶應内科は、内科医の土台を築き、世界に挑戦する機会を与えてくれた場所です。私自身は慶應大学卒で、医師1年目は北里研究所病院、2年目は慶應義塾大学病院で研修し、3年目に慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局、同時に大学院に進学しました。10年目から現在まで腸管免疫と糖尿病をテーマにコロンビア大学医学部微生物免疫学教室で博士研究員として働いています。
私自身は、祖母が糖尿病であったこともあり、元々内科学に興味はありました。しかし研修医になって実際の現場に出た時に、教科書の知識だけでは生身の患者さんを診ることができない事を痛感し、大きなショックを受けました。その時に大きな助けになったのが、慶應内科にいる沢山のお手本となる先輩医師達でした。1番覚えているのは、専修医時代に先輩医師がインスリンの治療方針の立て方の見本を見せてくれた時です。その医師は、単に糖尿病の病態だけを考えるのではなく、ベッドサイドで患者さんから仕事内容、食習慣、運動、趣味、費用面や家族のサポート面まで丹念に問診し、治療方法を模索していました。私は、その後ろ姿に内科の神髄を見た気がしました。内科医が全身を診るという事は、患者を全人的に診察する事なのだと教えてもらいました。今もその教えは、自分の診療の中に脈々と流れています。慶應内科が自分の内科医としての土台を築いてくれました。
内科医としての土台ができたら、次のステップは、自分が生涯打ち込むテーマを探す事だと思います。慶應大学・関連病院にはまだ診断法や治療法が確立されていない難しい疾患に苦しむ患者さん達が沢山来院されます。その時に皆さんは全力を尽くして診療にあたるでしょう。しかしその中で、自分の無力さにもがき苦しみ、壁にぶち当たる時がくると思います。そういった患者さんの声に真剣に耳を傾ける事で、おのずと自分が内科医として今後どんな疾患と向き合っていくのか、生涯取り組むテーマを見つけ出せるかもしれません。慶應内科では、昔からの習慣で研修医や専修医に、新規性のある症例の学会報告を積極的に指導する様にしています。その経験が自分のテーマを見つけるきっかけになるかもしれません。私自身、肥満外科手術の内科管理の患者さんを受け持った事をきっかけにして、糖尿病の病態の出発点として腸管免疫に着目し、現在のコロンビア大学微生物免疫学教室への留学という道に進みました。1人1人の患者さんを丁寧に診察し、未来の内科学に必要な問題点を抽出していく、そんな当たり前のことを自然な形で教えてくれるのが慶應内科だと思います。内科医としての土台を地に足を付けて築き、その土台を基に世界に挑戦してみたい後輩の皆さん、是非慶應内科の門をたたいてみて下さい。

慶應義塾大学医学部
腎臓内分泌代謝内科 専任講師
川野 義長

充実した環境での臨床と研究、そして育児との両立を目指して

慶應義塾大学医学部内科学教室 腎臓内分泌代謝内科
助教(専修医)
武田 彩乃私は旧研修医制度であった平成14年に内科学教室に入局し、卒後2年間の研修医期間に医師としての基本を学びながら、内科の各専門科をローテートしました。初期研修医の2年間で内科以外の科を経験し、より幅広い知識を持って患者さんに接することができる皆さんにとって、改めて内科の各専門科をローテートできる慶應義塾のプログラムは自分自身の将来を決定していく上で非常に有意義であると思います。また研究面においても最先端の技術や知識を習得できる機会が数多くあり、臨床医であるとともに疾患の原因究明や将来の新しい治療戦略を見据えた基礎研究を追及できる恵まれた環境です。
皆さんの中にもおそらく臨床・研究と、出産・育児との両立について悩んでいる先生もいらっしゃると思います。わが国では認可保育園の待機児童数が多いことが問題として取り上げられていますが、当院では病院から徒歩3分以内の場所に、育児をしている職員向けの保育施設「慶應義塾保育所」が設置され、私達女性医師が仕事を続けていく上で大変心強い味方となっております。私は長男が生後5ヶ月の時点で仕事に復帰し、同時に慶應義塾保育所にお世話になることになりました。慶應義塾保育所では一日の様子を保育士さんからの詳細な記録で振り返ることができ、育児の悩みを相談できる場でもあるため、息子とともに私も日々成長させていただいていると感じています。毎日息子が笑顔で通園し、私が安心して仕事に専念できるのも、定員15名と小規模であるからこそ保育士さん達の愛情のこもった、きめ細やかな保育を受けることができるからと考えております。
私が職場に復帰できたのは医局の先生方や保育所のスタッフの方々のご理解とご協力なくしては成し得なかったことでありますが、皆さんもぜひ諦めることなく一緒に頑張っていきましょう。

慶應義塾大学
保健管理センター・専任講師
武田 彩乃

「総合診療医が一つのゴール」

明医研ハーモニークリニック理事長
内科学客員講師
中根 晴幸(51回)初期研修はもちろん大切だが、内科は幅広く、息の長い診療領域です。息切れせずに、方向を誤らず進めばいつかゴールに達する、そんな体験を話します。
自分は腎・内分泌・代謝研究室に所属して卒後3年目から研究留学した例外的経歴のため国内の臨床研修を十分受けていません。卒後8年目に帰国し大学院に籍を置き地方病院に入職。先輩、同僚に教わりながら時間をかけて自己研修し、臨床家としては遠回りながら、症例に即した総合診療的な経験を積みました。専門領域としては高血圧診療をテーマに選び、そこからさらに領域を拡張して来ました。こんな型破りな研修ができたのは、慶應の自由な学風に育てられたおかげと思います。
病院在職12年目に病診連携を担当した際に考えついた「地域連携による在宅医療の推進」はその後全国に展開された医療モデルですが、平成7年に自らその構想を実践しようと開業しました。開業に踏み切る時は自分の経歴や専門知識が役立たなくなる気がしたが、現実には新たに得るものが多大でした。
ハーモニークリニックは訪問部門を備えた多機能診療所として評価を受け、現在は常勤医7名、全職員数100名を超え、大学からも市立病院からも内科実習生を受け入れています。私たちが目指すのは、地域に密着し、在宅医療にも対応し、とことん頼りになる医療を実践することで、在宅医療だけを目標とはしません。予防から緩和ケアまで含む癌診療も我々の仕事の一部です。自分を含め専門領域を学んだ医師は、能力を発揮できる診療機会を持ち続けるべきです。また自らを苦しくするような仕事は長続きしないが、チーム医療では互いの負担は軽減され機能が増します。
臨床医としての成功にはいくつか形があると思いますが、新しい診療領域を開拓できた現在には満足しています。医療自体が元来、魅力ある仕事で、我々はそうした医療の魅力に助けられ成長した例でしょう。
内科医の道は長く、進むにつれ魅力ある領域が開かれます。まず病院勤務に適した研修を受け、自分の役割を果たす経験を積んだ後、さらに総合診療医としての充実した日々を送ることが可能です。

明医研ハーモニークリニック理事長
内科学客員講師
中根 晴幸(51回)