機能グループ
機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群といった機能性消化管疾患は消化管内視鏡等で器質的病変を認めないにも関わらず、腹痛などの消化器症状を呈する疾患です。生命予後には影響しないものの、有病率は高く、症状によってのみ、診断がなされるため、消化管運動異常や精神的ストレス、腸内細菌、炎症など、様々なメカニズムが背景にあると考えられていますが、治療に応用可能な標的分子の同定などには至っていないのが現状です。機能グループでは機能性消化管疾患の病態生理を解明し、新たな診断法、治療法を開発することを目指しています。
1. 治療抵抗性胃食道逆流症の病態生理の解明・治療開発
胃食道逆流症に対する治療としてプロトンポンプ阻害薬を中心とした酸分泌抑制が行われますが、治療に反応しない患者さんが一定の割合で存在します。我々はこういった患者さんに対して高解像度食道内圧測定や24時間pHインピーダンスモニタリングを行っており、治療抵抗性胃食道逆流症の病態生理の解明を目指しています。また、より低侵襲な内視鏡治療を含む治療開発を行っています。
高解像度食道内圧測定
24時間pHインピーダンスモニタリング
2. 消化管ホルモンと胃腸症状や食欲との関連を明らかにする
グレリンやモチリン、GLP-1、GIP、コレシストキニンなどの消化管ホルモンは胃腸運動や食欲を制御するホルモンです。これらのホルモンがどのように制御され、どのような臨床応用への可能性を有するかはまだ不明な点が多いのが実情です。これらの消化管ホルモン動態を科学的に解析し、治療開発を目指します。
モチリン・グレリンの役割
ガストリン・ソマトスタチン・コレシストキニン・GLP-1・PYYの役割
3. 消化管神経、消化管グリアの機能性消化管疾患の病態生理的役割の解明
消化管には脊髄に相当する約10億のニューロンが存在し、消化管は'第2の脳'とも呼ばれています。近年、脳内ではニューロンの間に存在するグリア細胞が単に間質を埋めているだけではなく、様々な生理的、病態生理的な役割を担っていることが明らかになってきています。消化管においてもグリア細胞はニューロンの数倍、数十億存在しており、脳内同様にその生理的、病態生理的な役割が注目されています。
マウスの消化管神経叢
消化管ニューロン(緑:神経マーカー Hu陽性細胞)と
消化管グリア(赤:グリアマーカーSox10陽性細胞)
「油ものを食べるとお腹の調子が悪くなる」という感覚は誰しもが経験したことのある感覚です。しかしながら、その分子メカニズムは明らかになっていません。我々はある、脂質受容体に着目し、その消化管神経叢特異的欠損マウスを作成することに成功しています。現在、この脂質受容体の消化管ニューロン、グリアにおける役割について解析中です。
4. 胃発癌における胃内環境因子の解明
胃癌の発生原因としてピロリ菌が大きな役割を果たしている事は既に広く知られていますが、同時に動物実験ではピロリ菌単独では胃癌を発生させず、共生菌が胃発癌に必要である事が示唆されています。近年、胃内細菌叢を次世代シーケンサーによって解析する事が可能になりました。我々は、海外施設も含めた多施設で、この胃発癌における共生菌の探索、胃発癌のリスクとなる食生活の同定を目的とした基礎・臨床研究を行っております。